すっかり忘れていましたが、昨年の冬コミで配布したペーパーを…。
あんまり刷れなかったのであっという間になくなってしまい、大変に申し訳ありませんでした。
いまさらですが、アップしますねー。
ただし、2011年6月に発行されたDMアンソロに寄稿したものとシンクロしておりますので、ご了承ください。
(※修正/2021/12/26)
†††
最近気付いたのは、何気なく何度もメールボックスをチェックしている自分。
無意識のうちに、数分置きにそれを繰り返していて、我ながらその行動の可笑しさに思わず苦笑いしてしまった。
ふう、と息を吐く。
さて、お茶でも飲んで気分転換しようかな、とモバイルを閉じかけたその時、軽い音と共に『新着メール一件』のポップアップが画面に出た。
「相変わらず、用件のみの素気ないメールなんだから…」
セカンドフラッシュ・ダージリンの少し強めの香りが、大きめのマグカップから立ち上る。
こんなふうにお茶を入れて飲んでいるとアイツが知ったら、叱られそう。
そしてきっと、美味しいお茶の入れ方、なんて、凡そ見た目からは想像もつかない講釈を、実践を交えてご教授下さるのだろう。
彼の男と知り合ってもう直ぐ十年近くになる。
何処からどう見ても絶対にコーヒー党だと思っていたのだが、割と最近になって、紅茶もかなり好きなのだと知った。
何のきっかけか忘れたが、ご丁寧に、彼が自分でチョイスしたというリーフから淹れてくれたお茶をごちそうになったことがある。
味もさることながら、香りの深さに大層感動したものだ。
おまけに、お茶を入れる仕草の優雅なことといったら、何処かのカフェのギャルソンかと思う程ハマっていて、普段はモビルスーツを操る手が淹れたものとは到底信じられなかったことを思い出す。
お茶を入れることだけに拠らず、自然にそういう仕草が出るところは、本当にプラントのお坊ちゃまなんだろうな、と育ちの良さに感心できるのだが、いつも見せるいい加減そうで軽そうな態度とシニカルな表情からは全く予想出来なかった。
不覚にもそのギャップを知ってしまった時、私はきっと、彼の術に絡め取られてしまったのだろう。
紆余曲折あった私達の付き合いは、ヤツの思い描いていただろう結果におさまり、今さっき届いたメールの文章が如実に表している。
目で追えば数秒で終わってしまう短い伝言を何度も読み返し、幾分冷めてしまった紅茶を一気に飲み干して端末を閉じる。
窓に歩み寄り、勢い良く開けると、雨季特有の少しだけ湿気と潮気を含んだ風が窓から吹き込んできた。
そろそろシャトルに乗り込んだ頃だろう。数時間後地球に降り立つアイツを、どんな顔をして迎えてやろうかと、開け放った窓から覗く曇り空の中の一筋の青を眺めながら、私は思案を巡らすことにした。
《 了 》
※2011年12月30日 初出、書き下ろし