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潮騒のひかる海

※2011年2月11日・SEED IMPACT SN発行ペーパーより再掲
 
 
 
 

瞼の裏に薄らと透ける光の感覚に、おそらくもう直ぐ朝が来るのだと感じた。
寝返りを打とうと体を動かすが、しっかり拘束する腕がそれを許してくれない。


「…もうちょっと、いいだろ?……も少し、こうしてようよ…」

一段強くなる拘束と耳元に落とされる甘い低音に小さく身震いしてしまった。

「ん? もしかして、感じてる?」

くつくつ笑う声と同時に拘束していただけの腕が怪しい動きを始めた。

「ちょっと…ディアッカ!」

このまま相手の言いなりになるのも悔しくて抵抗するのだが、余計に抱き締める力が強くなる。
はあ、とわざと溜息を吐いてみせ、諦めの態度を取るべく肩の力を抜いた。
一瞬緩んだ腕を掻い潜ってディアッカの方を向く。大好きな夜明けの空の色が直ぐ目の前にあった。

「もう、夜が明けそうよ。朝が、来る…」

そう。
太陽が昇り切ってしまえば、ディアッカは人の姿から黒い毛並みの獣に変わってしまう。
夜の間だけ人の姿でいられる宿命に、当の本人はどう思っているのだろうか。
飄々とした顔からはその思いは窺えない。
自分とは違う濃い肌の色の下には、本人しか知り得ない何かがあるのだろうと、私は皇かな頬に手のひらを添え、つい、と啄ばむだけの口づけをディアッカに寄せた。



海が見たい、と言った私の我侭な願いをディアッカは聞いてくれた。
自分の生まれ育った国から遥か遠く離れたこの異国の丘に私たちはやって来た。
昼間は息を潜めるように森や岩陰に身を隠し、日の沈んでいる夜の間だけ移動する。
時に予想もしない困難に出遭い、命辛々それらを振り切りながら、辿り着いたこの地で、私が初めて見た海は。

緩く弧を描く水平線と空の境目が融け合うような夜明けの海。
まるでディアッカの瞳の色のようなその海を、私は瞬きもせずずっと見つめていた。

漣が寄せては返す度にざわざわと聞こえる音を『潮騒』というのだとディアッカが教えてくれた。
生まれ故郷の森でいつも聞いていた葉擦れの音に良く似ていると思った。
あの国に暮らしていたなら、海など一生見ることはないだろう。
想像でしか描けなかった景色が今、眼前に広がっている。
自分自身の存在がつまらないちっぽけなものにしか見えない、どこまでも続く海。


優しく寄り添う温もりに抱かれる私の頬を、何故か涙が一筋伝い、流れ落ちていった。


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この続きは、6月のプチオンリーで予定…。
よろしくお願いします。

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