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儚き光の幻

※2010/02/07発行予定本より一部抜粋

 


オペレーター席から目の前のモニター越しに見ていた景色は凡そ全て、あの閃光に包まれ、熱とともに散った、と思った。
呆けていたミリアリアを現実に引き戻したのは、遠慮がちに肩に置かれた手のひらの温度と重さが、すぐにまた離れていった、その感触。
ミリアリアは静かに瞼を閉じた。
一気に全身から力が抜けていくのがわかる。
――本当に、全部終わった、んだ…。
閉じた瞼の裏に真っ白な閃光が残像として刻まれている。

遡る記憶の波が彼女の意識を奪おうとしていくのを断ち切るように、タイミング良くコンソールパネル脇のコール音が鳴った。
ミリアリアは反射的に、背を預けていたオペレーター席の上ですいと背筋を直しモニターに向かうと、鳴り響くコール音に答えるべく、パネルのキーを叩いた。

***

プラント暫定評議会からの停戦宣言を受けてのち、数時間が既に経った。
停戦とともに、周辺宙域にあるモビルスーツや救難ポッドが、かつての敵味方も関係なく、近くにある艦への収容を求める通信を打診してくる。
アークエンジェルにも通信がひっきりなしに入り、ブリッジはさながら戦闘中のように慌ただしかった。
だが、激しい戦闘でアークエンジェルの損傷も尋常ではない。
手助けしたくとも十分に出来ない状況にクルー皆が歯がゆい思いを抱えている。
そんな状況の中、エターナル、クサナギとも連携を取りつつ、テキパキと収容する先を決めていくマリューの背中を、ミリアリアは何とも複雑な思いでずっと見つめていた。

***

プラントへ向けての宙域をゆったりと航行するアークエンジェルの航跡が淡い光の弧を描くのを、ぼんやりと見つめる。
あちこちに漂うデブリを避けながら、右に左に光の帯を残しゆったりと進むこの艦はやがて、プラント宙港の何処かに入港するのだろう。
何となく周りを見回せば、半舷休息中だというのに、最後尾にあるこの展望室にはミリアリアの他には誰もいなかった。
慌てて自室を出てきたせいで、眠る前の格好そのままだったから、一人きりなのは都合がいい。
このまま誰も来なければいい、そう思いながらまたガラスの外へ視線を向けた。
ここ数カ月、忘れてしまったかのようにずっと見ることのなかったあの『悪夢』のアラート音が、今も耳について離れない。

モニターに映し出された文字が示す意味を頭が理解するまでとても長い時間がかかった気がする。
艦に残ることを選んだのは良かったのだろうか。
一度目の機会は地球に降りる前。
勧められるままに退艦していれば、確実に戦争の現実を直視せずに生きて行けた。
でも自分が降りると言っても彼はきっと残っただろう。だったらあの日の出来事は既に運命として、己の身に決められていたことだったのか。
二度目はオーブ本土決戦の前にあった。誰にも左右されない、自分の本心のみに従って出した答えが、考えていたよりも過酷で苛烈だったけれど。
――あたしの選択は、間違ってなかったんだよね…。
たった一枚きりの一緒に映ったポートレイトと、何時か褪せていく思い出だけを残して逝った、思い人だった人の笑顔が浮かんで、さっき思い切り泣いたはずのミリアリアの頬を涙が再び濡らした。

***

プラント暫定議会から停戦宣言が出された後、周辺宙域に漂う、旗艦のなくなってしまったモビルスーツや救難ポッドを幾つか収容したらしいアークエンジェル内は、来ている軍服やパイロットスーツの色も形も様々な人間たちで溢れ、艦内はそれなりに人々が忙しく行き交っている。
艦のあちらこちらに戦闘の爪痕が深く残され、同様に負傷した人間も多く、当然医療班だけでは応対の手が足りない。
前線以上に戦場のような医務室は収容しきれない患者がたくさんいた。
ここではもはや所属や軍籍の意味はなく、まずは重傷者の処置が最優先され、軽傷者は簡単な応急処置でも施されれば運が良い方で、後は自分で何とかしろと医務室を追い出される。
仮にも『ザフトの赤』を纏っているディアッカもその例外ではなく、クルーの皆と変わらぬ扱いだった。
帰艦後診てもらった額の傷は出血の割に浅く、「これくらいの傷、舐めときゃ治る」とばかりに、簡単な消毒とおざなりに包帯を巻かれただけで医務室を出された。
確かに、あの戦闘の激しさと長さから、重傷を負った者や、不運にも命を落とした者も多くいるだろうと予想に難くない。
自分も命辛々ここに帰って来たが、幸いなことに、バスターは大破したにも関わらず、こんなかすり傷一つで戻ることが出来た自分はよっぽど運が良かったのだ。改めて己の悪運の強さに感謝した。


~以下、オフラインにて発行…

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